研究成果がNature Plants誌に掲載されました!
News 2019.07.02
生物は多様化することで、地球環境の変化に適応してきました。同時に、多様化は種の誕生をもたらしてきましたが、生物が自他の種を積極的に識別する分子メカニズムの存在は未知でした。
当研究室では、横浜市立大学木原生物学研究所、千葉大学大学院理学研究院ならびに奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科らとの共同研究により、モデル植物のシロイヌナズナから異種の花粉を積極的に排除する雌しべ因子をコードする遺伝子Stigmatic Privacy 1 (SPRI1)を発見し、その機能を解析しました.その結果、SPRI1遺伝子を欠損した変異株では、通常排除されるはずの異種の花粉が侵入するようになりました.SPRI1タンパク質は雌しべの先端で花粉を受け取る部分である柱頭の細胞膜に局在して異種と自種の花粉を識別し、異種のみを排除するメカニズムに関わることを明らかにしました.
精細胞と卵細胞の受精に関わる因子として哺乳類ではZP2、CD9、JUNO-IZUMO1、植物ではGCS1、LURE1-PRK6などが知られています.同種間ではこれらの雌雄タンパク質の相性が適合していることで受精が成功し、異種間では相性が悪いため受精が失敗することが報告されています.一方で、雌しべが好ましくない花粉を積極的に排除するのがSPRI1タンパク質の働きです.本研究によって、これまで知られているものとはまったく異なる分子メカニズムで配偶子を選択する仕組みを植物が備えていることが初めて明らかになりました.SPRI1遺伝子を欠損した株では異種の花粉の侵入により正常な受精が阻害されることから、SPRI1タンパク質は異種の花粉が混在する野外環境下での種間のせめぎあいにおいて重要な役割を果たすと考えられます.種の壁を司るSPRI1タンパク質を人為的に制御することで種間交雑が容易になり、より広範な地球環境に適応する作物の開発が可能になると期待されます.
本研究成果は植物生物学分野で最も権威が高い学術雑誌の一つであるNature Plants誌に掲載されました。
参考図